東京高等裁判所 昭和44年(ラ)528号 決定 1969年9月08日
主文
原審判を取り消し、本件を新潟家庭裁判所佐渡支部に差し戻す。
理由
本件抗告の要旨は、抗告状の記載事実を一件記録に照して理解すれば、三上ハツが昭和四四年四月一二日死亡したところ、同人には法定の相続人なく、その全遺産が本多隆に包括遺贈されていたので、抗告人は右遺贈による不動産所有権移転登記申請のため右受遺者とともに新潟地方法務局両津出張所に赴いて問い合せたところ、受遺者と遺言執行者の共同申請によらなければ右登記申請を受理できない旨の回答であつたので、抗告人は利害関係人として、原審に遺言執行者の選任を申し立てたところ、原審はその選任の余地がないかまたはあつてもその必要性がないとして右申立を却下する旨の審判をしたが、抗告人はこれに不服であるから本件抗告に及んだとの趣旨であると解される。
不動産の権利変動に関する登記については、わが不動産登記法は登記官のいわゆる形式的審査主義を建前としているから、登記の真正を期するため同法は登記権利者と登記義務者の共同申請によらしめることを基本的な原則としており、ただ例外的に、同法第二七条において判決または相続による登記は登記権利者のみで申請しうる旨規定して相続による登記につき判決による登記と同様に相続人の単独申請を許しているのは、相続のように被相続人との身分関係によつて法定された権利義務の承継については、戸籍その他社会生活上の外部的関係から一応明らかなので、単独申請を認めても登記の真正保持の点からみてさしたる支障がないからであると解される。しただつて、遺贈のような意思表示による物権変動については、それが特定遺贈であれ包括遺贈であれ、同条のような例外的規定は、その明文上からしても、はたまた立法趣旨からしても適用がないのであつて、民法第九九〇条に包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有する旨規定されているからといつて、このことからただちに不動産登記法上包括受遺者の取得登記についてまで相続人と同じく単独申請でなしうると解さなければならないわけのものではないのである。すなわち、遺贈による不動産の取得登記は、判決による場合を除き、受遺者(登記権利者)と遺言執行者または相続人(登記義務者)との共同申請によるべきであつて、包括遺贈の場合も例外ではないと解すべきである(昭和三三年四月二八日民事甲第七七九号法務省民事局長心得通達も同趣旨である。)。
ところで、本件においては、遺贈者にはもともと法定相続人がなく、全遺産が包括遺贈されたというのであるから、このような場合には、遺贈の効力が発生するとともに全遺産は受遺者に移転するから、その限りでは遺言の執行という観念を容れる余地がないけれども、遺贈による不動産の取得登記という点についてみれば、登記義務者となるべき相続人がいないのであるから遺言執行者を選任して右登記手続を完遂する必要性があるものといわなければならない。してみれば、本件の場合に遺言執行者を選任する余地がないか、あつてもその必要性が全く認められないとして抗告人の本件申立を却下した原審判は不当であつて取消を免れず、本件を原審に差し戻すのが相当であるから、主文のとおり決定する。(青木義人 高津環 浜秀和)